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2009年07月16日
急斜面の山肌につづら折りの道が走る。幾何学模様を描くかのように、道筋は鋭角に折れ曲がりながら谷底に向かう。
栗原市花山の湯浜地区。昨年6月の岩手・宮城内陸地震で、迫川上流にできた「湯浜土砂ダム」の上空をヘリコプターで飛んだ。
昨年から造成していた湯浜土砂ダムへの工事用道路が、このほどやっと完成した。もろい地盤。絶壁のような急傾斜地。道路の敷設は難航を極めた。「湯浜土砂ダムだけは手を付けられないのではないか」。国直轄の緊急工事を担う東北地方整備局でさえ、内部でそんな声が漏れた。
工事用道路は、国道398号から土砂ダムまでの2.1キロ。昨年中に約1キロを敷設し、雪解けを待って今年、残りに着手した。しかし、条件が厳しく、ルートは当初計画から大きく変更を余儀なくされた。
斜面を縫う道筋は、人の技術と自然との格闘の跡でもある。
堰堤(えんてい)に重機が3機見える。崩落した巨大な岩石がごろごろ転がっている。「今のところ、堰堤にはキャタピラーの重機しか下りられない。堰堤をならす工事をしている」(東北地方整備局)という。
湯浜土砂ダムは、迫川下流域の住民にとって脅威となってきた。東北地方整備局は8月にも、決壊や浸食を防ぐ土砂ダム本体への工事に着手する。土砂ダムに岩石を詰め込んだ金属フェンス4基を埋め込む。越流による浸食を防止し、河床の安定化を図る。
湯浜土砂ダムは、幅200メートル、長さ1キロにわたって土砂が迫川をせき止めた。周囲の山々が深い緑に覆われる中で、崩落した山が今なお、赤茶けた地肌をむき出しにしている。
上流に巨大な「湖」が群青色の水をたたえる。貯水量は約80万トン。水深は約30メートル。内陸地震でできた土砂ダム湖では最大規模だ。
震災のつめ跡として出現した「湖」。一般の人々が入山できるようになった際、震災の象徴として活用する手だてはないものだろうか。
(報道部・古関良行)
写真:重機を運び入れる道路が完成した湯浜土砂ダム。奥のつづら折りの道が工事用道路=栗原市花山湯浜